公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法

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給特法から転送)
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
日本国政府国章(準)
日本の法令
通称・略称 給特法[1]、教員給与特別措置法[2]、学校教育職員の給与等に関する特別措置法[3]
法令番号 昭和46年法律第77号
種類 教育法
効力 現行法
成立 1971年5月24日
公布 1971年5月28日
施行 1972年1月1日
所管 文部科学省
制定時題名 国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
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公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(こうりつのぎむきょういくしょがっこうとうのきょういくしょくいんのきゅうよとうにかんするとくべつそちほう、昭和46年5月28日法律第77号)は、公立学校教育職員給与やその他の勤務条件について特例を定めた、1971年昭和46年)公布の日本法律である。略称は、給特法(きゅうとくほう)。

沿革[編集]

第二次世界大戦後に労働法関連の諸法規が制定され、教育職員も労働者の一員として労働基準法地方公務員法の規定が適用されるものとされた[4]。しかし、現実には教育職員に残業手当が支払われず、残業手当を請求する訴訟が提起され、裁判所が残業手当の支払いを命じる、という事態が繰り返し起こった[4]。このような事態に対応するため、文部省は教育職員の勤務状況の調査を行った[4]。そして、そこで把握した残業の実態を踏まえて、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が1971年昭和46年)5月28日に成立し、1972年(昭和47年)1月1日から施行された[4][5]。これにより、平均残業時間(月8時間程度)に見合う基本給の4%に相当する「教職調整額」を支給することとなった[4]

2004年平成16年)4月1日施行の「国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成15年7月16日法律第117号)により、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」という名称を「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」に改められる[6]

2006年(平成18年)6月2日に施行された「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年6月2日法律第47号)の規定により、政府は公立学校の教育職員の給与の在り方に関する検討を行うこととなり、同年7月10日に初等中等教育分科会において「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」を設置し[7]、同年7月から12月にかけて「教員勤務実態調査」が実施される[8]

2016年(平成28年)、「教育政策に関する実証研究」の一つとして「教員勤務実態調査」が行われる[9]

2019年(平成31年)1月25日、「学校における働き方改革」の一環として、給特法に規定する教育職員を対象とする「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」が制定される[10]

2020年令和2年)1月17日、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」(令和元年12月11日法律第72号)の規定により追加された7条(教育職員の業務量の適切な管理等に関する指針の策定等)の規定に基づき、文部科学大臣がガイドラインを「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」に改めた上で策定する[11]2021年(令和3年)4月1日、同法の規定により改正された5条が施行され、労働基準法32条の4に規定する「1年単位の変形労働時間制」が教育職員に適用されることとなった[12]

2024年5月、給特法上乗せ分を4%から10%以上に変更する改革案を中教審部会が提出したが[13]、現場からは教職離れの抜本解決にならないとの声がある[14]

内容[編集]

教育職員(主幹教諭指導教諭教諭養護教諭栄養教諭助教諭養護助教諭講師実習助手寄宿舎指導員)には、原則として時間外勤務手当・休日勤務手当を支給しない代わりに[注釈 1]、その教育職員の給料月額の4%に相当する額を教職調整額として支給しなければならない(給特法2条2項、3条1項、2項)。

公立学校の教育職員に時間外勤務を命じるには、次の超勤4項目に該当する場合のみ公務のために臨時の必要がある場合、健康及び福祉を害しないように考慮しなければならないとされており、それ以外は労働基準法36条協定を必要とする。「超勤4項目」とは次に該当するもので、「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」で定められている[18]

  1. イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
  2. ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
  3. ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
  4. ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

問題[編集]

残業時間[編集]

給特法は、業務量にかかわらず「教職調整額」を一律に支給する一方で残業代は支給しないと定めていることから、教育職員の勤務時間の管理を曖昧にしているとの指摘がある[19]2013年OECDによる国際教員指導環境調査(TALIS)で参加国34か国のうち日本は、教師の勤務時間が最長で、かつ授業時間が短く、学業以外の事務・会議・部活動などでの時間が長いことがわかった[20]2016年(平成28)の文部科学省調査により、教師の勤務実態が明らかとなり、改革に取り組むこととなった[21]

2013年(平成25年)に行われた横浜市教育委員会の調査では、1か月の時間外勤務が平均で約90時間という結果が出された[22]。これは、学習内容の改定に伴う個別指導の増加や学校の小規模化による教育職員1人あたりの校務の増加が原因とされ、さらに2000年代以降は、夏休みも研修や教材研究、補習などによる出勤が必要となり、長時間労働が当然となっている実情があるとされる[22]。残業代の支払いを求める訴訟が起こされた例もあるが、校長が残業を命じていないことや時間外勤務を断ることが出来たことを理由に訴えが退けられている[22]

2016年(平成28年)に行われた文部科学省の調査では、小学校の34%、中学校の58%の残業時間が月80時間(過労死ライン)以上となっているという結果となった[19]

2022年度文部科学省の教員勤務実態調査では、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員が、中学校で77.1%、小学校では64.5%で依然として長時間勤務が常態化しており、文部科学省は教員の処遇の改善や働き方改革を進めるとしている[23]

変形労働時間制[編集]

1年単位の変形労働時間制は、閑散期の勤務時間を短くする代わりに繁忙期の定時を延長する制度であり、繁忙期の退勤時間が一般的な保育園の預かり時間を超えてしまうため、子育て世代の教育職員は退職の必要が出てくるとされる[24]。また、内田良は、そもそも教育職員に閑散期というものはなく政府が各月の勤務実態の統計を取らないまま変形労働時間制の導入を図ろうとすることを問題視しており、広田照幸は、変形労働時間制は見かけ上の残業時間は減らすが抜本的解決にはつながらないと指摘する[24]

適用根拠[編集]

元々、同法は国立学校教員を対象として、俸給月額の4%に相当する額の教職調整額を支給することが旧第3条で定められており、文部省が人事院と協議して定める場合に勤務時間外の例外ができるものとされていた。このため当時は4項目に加え、学生の教育実習指導の実務が存在していた。また、1974年2月制定の「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(人確法)で人事院が国会及び内閣に対して国会公務員である教職員給与について必要な勧告を求めることとされていることで、人事院勧告により国立学校教員給与が引き上げられていた。一方、公立学校教員は旧教育公務員法特例法第25条の5による国立学校準拠制に従い、その準拠により公立学校教員に波及する方法が採られた。しかしながら2004年に国立大学が法人化されることにより準拠の根拠が消失することとなった。これにより、給特法の名称は「公立の」と冠せられ、本来国立大学教員を対象にしていた4%調整額の根拠について、4%は参照基準となり具体的支給率が自治体条例によることと改正されていった。さらに、ストライキ権の代替である人事院勧告が国立学校準拠制の廃止により無くなったことで、各自治体の全国組織の全国人事委員会連合会は、人事院の外郭団体の一般財団法人日本行政人事研究所に教員のモデル給料法を作成されることで代替措置が諮られている。大阪大学 大学院人間科学研究科 准教授 高橋哲は、同手法を「外注」状態と位置づけ、勤労者の労働基本権の憲法第28条問題に発展しうる争点と指摘している[25]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」(平成15年12月3日政令第484号)において、教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、(1)校外実習その他生徒の実習に関する業務、(2)修学旅行その他学校の行事に関する業務、(3)職員会議に関する業務、(4)非常災害の場合、児童・生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務、といった臨時または緊急のやむを得ない必要がある業務に従事する場合に限ると規定されている[15]。これらを総称して「限定4項目[16]」や「超勤4項目[17]」と呼ぶ。

出典[編集]

  1. ^ "給特法". 知恵蔵mini. コトバンクより2022年2月27日閲覧
  2. ^ "教員給与特別措置法". デジタル大辞泉. コトバンクより2022年2月27日閲覧
  3. ^ "学校教育職員の給与等に関する特別措置法". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2022年2月27日閲覧
  4. ^ a b c d e 萬井 2009, p. 50.
  5. ^ 法律第七十七号(昭四六・五・二八)”. 衆議院. 2022年2月27日閲覧。
  6. ^ 法律第百十七号(平一五・七・一六)”. 衆議院. 2022年2月27日閲覧。
  7. ^ 教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(第1回) 議事録”. 文部科学省. 2022年2月27日閲覧。
  8. ^ 小川 2007, p. 9.
  9. ^ 教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)” (PDF). 文部科学省 (2018年9月27日). 2022年2月27日閲覧。
  10. ^ 公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン(平成31年1月25日)” (PDF). 文部科学省 (2019年1月25日). 2022年2月27日閲覧。
  11. ^ 「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」の告示等について(通知)(令和2年1月17日)” (PDF). 文部科学省 (2020年1月17日). 2022年2月27日閲覧。
  12. ^ 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案(概要)” (PDF). 文部科学省. 2022年2月27日閲覧。
  13. ^ 教員給与上乗せ 10%以上に引き上げの素案 中教審部会が提出”. NHK (2024年4月19日). 2024年5月11日閲覧。
  14. ^ 教員は憤る。「定額働かせ放題に変わりはない」…50年ぶり給特法見直し→月額上乗せ「10%以上」にも落胆の色濃く「教職離れの抜本解決にならない」”. 南日本新聞 (2024年4月20日). 2024年5月11日閲覧。
  15. ^ 公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令 - e-Gov法令検索
  16. ^ 萬井 2009, p. 51.
  17. ^ 超勤4項目”. 東京教育研究所. 2022年2月27日閲覧。
  18. ^ 公立学校の校長先生のためのやさしい!勤務時間管理講座”. 2021年10月22日閲覧。
  19. ^ a b 「教員の勤務時間 本格議論 中教審、「給特法」見直しへ」『読売新聞』、2018年2月9日、2面。
  20. ^ TALIS(OECD国際教員指導環境調査) 文部科学省総合教育政策局教育人材政策課。TALIS日本版報告書「2013年調査結果の要約」、国立教育政策研究所、「教員の仕事時間」p.22-4.
  21. ^ 学校における働き方改革について文部科学省
  22. ^ a b c 大広悠子「[解説スペシャル]公立校教師 残業代なし 時間外は「自発的勤務」」『読売新聞』、2015年8月27日、11面。
  23. ^ 国の残業の上限超える教員 中学校77.1% 小学校64.5% 現場は” (2023年4月28日). 2023年5月23日閲覧。
  24. ^ a b 石田かおる (2019年10月19日). “教師をもう続けられない…3万人が残業隠しの「変形労働時間制」に悲鳴と怒り”. 2022年2月27日閲覧。
  25. ^ 聖職と労働のあいだ「教員の働き方改革」への法理論 高橋哲 岩波書店 2022年6月発行 ISBUN978-4-00-061538-9

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]