中央銀行発行デジタル通貨

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中央銀行デジタル通貨(ちゅうおうぎんこうデジタルつうか、: central bank digital currency, CBDC)あるいは中央銀行発行デジタル通貨(ちゅうおうぎんこうはっこうデジタルつうか)は、中央銀行が発行したデジタル通貨の一種で、デジタル不換紙幣(政府の規制、金融当局、または法律によってお金として確立された通貨)[1]

A sign on the Hangzhou Metro advertising acceptance of the Digital Renminbi
初めて主要な経済に受け入れられた中央銀行発行デジタル通貨である、デジタル人民元の 引き受けを広告する杭州地下鉄での標識(中国)。

現在のCBDCの概念はビットコインに直接触発された通貨管理に由来するが、CBDCは国家の中央銀行が中央集権的に発行する、という点で仮想通貨暗号通貨とは異なる[2][3]

歴史[編集]

1990年代、フィンランドのAvantプリペイド電子マネーカードなど中央銀行は以前に直接電子マネーを発行した[4]。 現在の中央銀行デジタル通貨の概念は、ビットコインや類似のブロックチェーンを基にした、暗号通貨に触発されたものである。

2015年9月、イングランド銀行はチーフエコノミストのアンドリュー・G・ハルダーンのブロックチェーンを基にした中央銀行通貨の講演で、マイナス金利を実施する可能性について議論した[5]。 2016年3月、金融政策担当副総裁ベン・ブロードベントのスピーチで、「中央銀行デジタル通貨」という言葉がおそらく初めて使われ、ビットコインによる直接のインスピレーションに言及した[6] [7]

2016年11月、スウェーデンの中央銀行であるスウェーデン国立銀行は「E-クローナ」を討議し[4]、2020年には「E-クローナ」の概念実証テストを開始した[8][9][10]

2017年11月、ウルグアイ中央銀行は、デジタルウルグアイ・ペソを発行テストを開始すると発表した[11][12]

2019年3月、東カリブ諸国機構参加各国の中央銀行である東カリブ中央銀行(en:Eastern Caribbean Central Bank)は、バルバドスに拠点を置くフィンテック企業Bittと、パイロットCBDCプロジェクトに参加すると発表した[13]

ユーロ圏では、スペインの中央銀行であるスペイン銀行の元総裁ミゲル・アンヘル・フェルナンデス・オルドニェス(Miguel Ángel Fernández Ordóñez)が、デジタルユーロの導入を求めてきたが、2018年9月末現在、欧州中央銀行(ECB)はそのような可能性を否定しているが[14]、2019年12月、ECBは「ECBはまた、物理的な現金の使用が最終的に減少したとしても、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行することの費用と便益を引き続き評価する。CBDCは一般の人々が中央銀行の貨幣を使用できるようにする可能性がある[15]」と述べている。

2020年7月23日、リトアニア中央銀行により制御されたCBDC実験の一部としてリトアニアの独立記念デジタルコインLBCoinが発行された[16]。LBCoinはブロックチェーン上で発行[17]された24000トークン及び物理的な記念硬貨4000枚で構成される。リトアニア中央銀行のオンラインショップで1トークンあたり19.18ユーロで販売された。記念硬貨ではあるが、正式に発行された中央銀行デジタル通貨としては世界初である[18]

2020年10月9日より、中国人民銀行深圳市において1000万人民元(約1.5億円相当)のデジタル人民元を発行する初の公開実験を行った[19]。これを皮切りに中国は2014年から開発してきたデジタル人民元の利用を拡大させ、主要国では初めて中銀デジタル通貨を普及させた国となった[20]

2020年10月9日、日本銀行は「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を発表した[21]。現時点で中央銀行デジタル通貨を発行する計画はないが、準備だけは進めるとした。また、日本やヨーロッパなどの中央銀行と共に「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」も発表した[22]

2020年10月20日、アメリカの中央銀行のFRBは、導入の1番手になるつもりはないが、研究は続けるとした[23]

2020年10月20日、バハマ中央銀行はデジタルバハマ・ドル(Bahamian dollar)のサンド・ドル(sand dollar)を発行した[24][25]

2020年10月28日、カンボジア国立銀行はデジタルリエルのバコン(Bakong)を発行した[26][27]

2023年2月7日、イギリスでデジタル通貨への移行について議論となった。大蔵省イングランド銀行は、政府の管理下で、デジタルポンド英語版が2025年以降に導入される可能性が高いと述べている[28]。2週間後、スイスの市民団体が電子決済により国家による国民の行動の監視が容易になるのではないかとの懸念を示したため、スイス政府はキャッシュレスに関する国民投票を実施した[29]

実装[編集]

中央銀行デジタル通貨は、中央銀行、政府、または承認された民間部門の事業体が運営するデータベースを使って実装される可能性が高い[30][31]。データベースは、(適切なプライバシーと暗号化保護を備えた)人や企業などのあらゆる事業体が保有する金額の記録を保持する。暗号通貨とは対照的に、中央銀行デジタル通貨は(たとえそれが分散データベース上にあったとしても)中央管理型であり、したがってブロックチェーンまたはその他の分散型元帳en:distributed ledger) は、それらがコンセプトの元のインスピレーションであったとしても、必要とされず有用ではない[30][31]

分類[編集]

日本銀行は以下の2種類に分類している[21]

ホールセール型(wholesale)
金融機関の利用に限定する方法。分散型台帳技術を活用する。
一般利用型(general purpose)
一般の個人や法人が利用する。日本銀行としては、民間の金融機関を経由して間接的に提供する。日本銀行は、日本はキャッシュレス化が進んでいないため、導入は他国よりも遅れるのではないかとしている。

危険性[編集]

利益の可能性があるにもかかわらず、中央銀行発行デジタル通貨には逆の論点が残る。そしてこれらの実装に関係する危険性がある。

  • 銀行システムの媒介不活性化:その国民への直接的なデジタル通貨の供給する能力により、一つの問題は銀行システムからのシフトアウトになる移り変わりであることである[32]
  • 中央集権化:多くの暗号通貨のように非中央集権化されているというよりはむしろ、多くの中央銀行発行デジタル通貨は中央集権化されているので、中央銀行発行デジタル通貨の発行者はスイッチの切替えによって任意の者の口座から金銭を加除しうる[33][信頼性要検証]
  • デジタルドル化:よく機能する(民間を含む)外国のデジタル通貨はこれらの通貨置換 英語: Currency substitution において述べられる同じ理由によって地域通貨の代替物になりうる[34]
  • プライバシー:
    • 「各人の消費に関する鳥瞰の」[35]、「金融取引の可視性を政府は直接に持つ」[36]
  • 政府の社会操作:
    • デジタル通貨は「単なる'監視国家'(: survellance state)の拡大になりうるだろう」[36]

政府発行デジタル通貨[編集]

中央銀行ではなく政府が発行したデジタル通貨も存在した。

2017年12月、ベネズエラ政府はペトロの発行を発表。政府は利用促進策を打つなど普及を試みたが利用が伸びることはなく、2024年1月15日をもって廃止された[37]

脚注[編集]

  1. ^ Central Bank Digital Currencies (CBDCs) Monetary Economics: Central Banks - Policies & Impacts eJournal. Social Science Research Network.
  2. ^ Silva, Matthew De. “What China could gain from a digital yuan” (英語). Quartz. 2019年9月28日閲覧。
  3. ^ “Financial innovation and monetary policy: Challenges and prospects”. European Parliament. (2017). http://www.europarl.europa.eu/cmsdata/118906/KIEL_FINAL%20upload.pdf. 
  4. ^ a b https://pdfs.semanticscholar.org/9fa6/e095fa409d199e7aec8b50b657a7075fbe9e.pdf
  5. ^ https://www.bankofengland.co.uk/speech/2015/how-low-can-you-can-go
  6. ^ Central banks and digital currencies - speech by Ben Broadbent | Bank of England” (英語). www.bankofengland.co.uk. 2017年11月12日閲覧。
  7. ^ Bjerg, Ole (2017-06-13). Designing New Money - The Policy Trilemma of Central Bank Digital Currency. Rochester, NY. SSRN 2985381. 
  8. ^ Sweden's Riksbank eyes digital currency”. Financial Times. 2017年11月9日閲覧。
  9. ^ Riksbanken. “The E-krona project – First interim report” (英語). www.riksbank.se. 2017年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年11月10日閲覧。
  10. ^ The Riksbank to test technical solution for the e-krona”. www.riksbank.se. 2020年2月25日閲覧。
  11. ^ Uruguayan central bank to test digital currency - Agencia EFE, 20 September 2017
  12. ^ El BCU presentó un plan piloto para la emisión de billetes digitales - Central Bank of Uruguay, 3 November 2017
  13. ^ Eastern Caribbean Central Bank CBDC - March 2019
  14. ^ “ECB rejects implementation of "digital euro" for wrong reasons” (英語). Positive Money Europe. (2018年9月28日). http://www.positivemoney.eu/2018/09/ecb-digital-currency-miguel-ordonez/ 2018年9月28日閲覧。 
  15. ^ Innovation and its impact on the European retail payment landscape”. European Central Bank (2019年12月). 2020年7月23日閲覧。
  16. ^ Bank of Lithuania issues LBCOIN – the world’s first digital collector coin More: https://www.lb.lt/en/news/bank-of-lithuania-issues-lbcoin-the-world-s-first-digital-collector-coin”. Bank of Lithuania (2020年7月23日). 2022年12月24日閲覧。
  17. ^ ネム(NEM)ブロックチェーンベースのLBCOIN、リトアニア中銀のCBDC実験の一部として正式発行”. コイン東京 (2020年7月26日). 2022年12月24日閲覧。
  18. ^ リトアニア銀行、CBDCのLBCOINをリリース”. 世界のFX・暗号資産ニュース (2020年7月27日). 2022年12月24日閲覧。
  19. ^ 中国、1000万元相当のデジタル通貨発行へ 初の公開テスト実施”. ロイター (2020年10月10日). 2020年10月13日閲覧。
  20. ^ デジタル法定通貨つくり出した中国 主要国で初”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2021年4月6日). 2021年4月20日閲覧。
  21. ^ a b 中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針 : 日本銀行 Bank of Japan
  22. ^ 主要中央銀行による中央銀行デジタル通貨の活用可能性を評価するためのグループが報告書を公表 : 日本銀行 Bank of Japan
  23. ^ デジタル通貨研究に力 FRB議長「最先端に」: 日本経済新聞
  24. ^ Digital Bahamian Dollar Sand Dollar
  25. ^ Cambodia debuts digital currency as emerging countries lead charge - Nikkei Asia
  26. ^ បាគង | Bakong – The Next-Generation Mobile Payments
  27. ^ Bakong Official Launch, Press Release, SORAMITSU
  28. ^ Elliott, Larry (2023年2月7日). “'Britcoin' digital currency could be in use by end of decade”. https://www.theguardian.com/business/2023/feb/06/britcoin-digital-currency-could-be-in-use-by-end-of-decade 2024年2月6日閲覧。 
  29. ^ “Swiss to vote on preventing cashless society, pressure group says” (英語). Reuters. (2023年2月6日). https://www.reuters.com/markets/europe/swiss-vote-preventing-cashless-society-pressure-group-says-2023-02-06/ 2024年2月6日閲覧。 
  30. ^ a b What is China's digital currency plan?”. www.ft.com. Financial Times. 2020年7月25日閲覧。
  31. ^ a b Analytical Report on the E-Hryvnia Pilot Project”. National Bank of Ukraine. 2020年7月25日閲覧。
  32. ^ Tilton 2020
  33. ^ Frankenfield 2019
  34. ^ Carstens 2021
  35. ^ FinancialPost 2022
  36. ^ a b Time 2021
  37. ^ “Venezuela Kills Off Petro Cryptocurrency”. バロンズ. (2024年1月12日). https://www.barrons.com/news/venezuela-kills-off-petro-cryptocurrency-1e2b0317 2024年2月6日閲覧。 

外部リンク[編集]