ボンベイ (映画)

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ボンベイ
Bombay
監督 マニ・ラトナム英語版
脚本 マニ・ラトナム
製作 S・シュリラーム英語版
マニ・ラトナム
ジャムー・スガーンド
出演者 アルヴィンド・スワーミ
マニーシャ・コイララ
音楽 A・R・ラフマーン
撮影 ラージーヴ・メーナン英語版
編集 スレーシュ・ウルス英語版
製作会社 アーラヤム・プロダクション
配給 インドの旗 アーラヤム・プロダクション、アインガラン・インターナショナル英語版
日本の旗 アジア映画社、オフィスサンマルサン
公開 インドの旗 1995年3月10日
日本の旗 1998年7月25日
上映時間 145分[1]
製作国 インドの旗 インド
言語 タミル語
興行収入 ₹140,000,000[2]
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ボンベイ』(Bombay)は、1995年に公開されたインドタミル語ロマンティック・ドラマ映画[3]マニ・ラトナム英語版が監督を務め、アルヴィンド・スワーミマニーシャ・コイララが主演を務めた。1992年12月から1993年1月にかけて発生したボンベイ暴動英語版ヒンドゥー教徒ムスリム異宗婚を題材としている。本作はインドの政治情勢を背景にした人間関係を描いたラトナム三部作(『ロージャー』『ボンベイ』『ディル・セ 心から』)の2作目である[4]ヒンディー語テルグ語マラヤーラム語吹替版が製作されている。

『ボンベイ』は最も興行的な成功を収めたタミル語映画の一つであり、批評的にも高い評価を受けており、フィラデルフィア映画祭英語版などの国際映画祭でも上映された。A・R・ラフマーンが手掛けたサウンドトラックはインド史上最も成功したサウンドトラックの一つに挙げられている[5]

ストーリー[編集]

キャスト[編集]

アルヴィンド・スワーミ
マニーシャ・コイララ

製作[編集]

企画[編集]

ティルマライ・ナヤッカル・マハル

Thiruda Thiruda』の映画音楽のレコーディング中にボンベイ暴動英語版が発生した。マニ・ラトナム英語版は暴動に巻き込まれた少年を題材にしたマラヤーラム語映画の製作を企画し、M・T・ヴァスデヴァン・ナーイル英語版に脚本の執筆を依頼した。この映画はラトナムにとって『Unaru』に次ぐ2作目のマラヤーラム語映画になる予定だった。しかし、企画が途中で中止となり、後にタミル語映画として企画が再始動し、タイトルは「Bombay」に決まった[10]

ラトナムはヴィクラムマニーシャ・コイララを起用して写真撮影を行ったが、ヴィクラムは同時期に製作が進行していた『Pudhiya Mannargal』の役作りのために生やしていた髭を剃ることができなかったため、ラトナムは彼の起用を断念した[11]。ラトナムによると、『ボンベイ』は元々政治映画として企画したものではなかったという[12]。マニーシャ・コイララの声はローヒニ英語版が吹き替えている[13]。この他、ムスリムナーサルは映画ではヒンドゥー教徒役、ヒンドゥー教徒のキッティ英語版はムスリム役に起用されたが、ラトナムは2人の役柄は意図的にキャスティングしたものと語っている[14][6]

撮影監督にはラージーヴ・メーナン英語版が起用された。彼はラトナムからボンベイ暴動を題材にした映画の撮影を打診された際に「可能な限り暴動を美しく撮影する必要がある」と語り、雨の中での撮影を提案した。屋内のシーンはポラチ英語版、屋外のシーンはカサラゴッド英語版カンヌール県英語版で撮影された。「Kannalane」の歌曲シーンはティルマライ・ナヤッカル・マハル英語版[15]、「Uyire」の歌曲シーンはベカル砦英語版で撮影された[16]バーブリー・マスジドの破壊シーンは中央映画認証委員会が描写することに難色を示したため、新聞記事と写真での描写に変更された[17][18]

音楽[編集]

映画音楽を手掛けたA・R・ラフマーンは『ロージャー』『Thiruda Thiruda』に続いてラトナム監督作品への参加となった。タミル語版の作詞はヴァイラムトゥ英語版が手掛け、「Antha Arabi Kadaloram」のみヴァーリ英語版が作詞している。サウンドトラックは1500万枚の売上数を記録し、歴代最高販売数を記録したアルバムの一つとなった[19][20]。アルバムはガーディアンの「死ぬ前に聞くべきアルバム1000」の一つに選ばれ[21]K・S・チスラ英語版が歌った「Kannalanae」は「誰もが聞くべき1000曲」の一つに選ばれている[21]

作品のテーマ[編集]

ラトナムは『ボンベイ』を「共同社会の調和を描いたポジティブな映画」と表現している。彼によるとボンベイ暴動は作品のテーマではないが、「無力で罪のない男は、自らが作り出したものではない暴力に巻き込まれた」と語っている[6]

公開[編集]

1995年3月10日に公開され、同日にテルグ語吹替版『Bombayi』も公開された[22][23]マレーシアシンガポールでは宗派対立の描写が問題視され、上映が禁止された[24][25]

評価[編集]

興行収入[編集]

Box Office Indiaによるとヒンディー語版の興行収入は1億4000万ルピー(2019年換算で6億7000万ルピー/940万ドル)を記録し、1995年公開のインド映画興行成績第10位にランクインしている[2]

批評[編集]

アーナンダ・ヴィカタン英語版は1995年3月19日付けの批評で、53/100の評価を与えている[26]。アーナンド・カンナンはプラネット・ボリウッドに寄稿し、「私は『ボンベイ』をマニ・ラトナムの最高傑作とは呼びません……しかし、良い演技、社会性の高いテーマ、そしてペースの速さは観賞する価値を生み出しています」と批評している[27]。1996年にジェームズ・ベラーディネリは3.5/4の星を与え、「北米ではアピールが限定的で、さらにクオリティーにも疑問符が付くためインド映画の存在は配給業者から無視されることが多いです。しかし、時折素晴らしい映画が国際映画祭の中で栄誉を得ることにより、人々に十分な魅力を持つことを気付かせます。そのような映画の一つに、名監督マニ・ラトナムの14番目の作品である『ボンベイ』があります」と批評している[28]英国映画協会は『ボンベイ』を「インド映画トップ20」の一つに選んでいる[29]バンガロール・ミラー英語版は、『ボンベイ』と『愛と哀しみの旅路』の間に類似点があると指摘している[30]

受賞[編集]

映画賞 部門 対象 結果 出典
第43回国家映画賞英語版 ナルギス・ダット賞 国民の融和に関する長編映画賞英語版 マニ・ラトナム 受賞
編集賞英語版 スレーシュ・ウルス英語版
第41回フィルムフェア賞英語版 審査員選出作品賞英語版 マニ・ラトナム
審査員選出主演女優賞 マニーシャ・コイララ
第43回フィルムフェア賞 南インド映画部門英語版 タミル語映画部門作品賞英語版 S・シュリラーム
タミル語映画部門監督賞英語版 マニ・ラトナム
タミル語映画部門主演女優賞英語版 マニーシャ・コイララ
タミル語映画部門音楽監督賞 A・R・ラフマーン
マトリ・シュリー・メディア・アワード英語版 作品賞 マニ・ラトナム [31]
タミル・ナードゥ州映画賞 作詞家賞英語版 ヴァイラムトゥ
女性プレイバックシンガー賞英語版 K・S・チスラ
シネ・ゴールズ・アワード タミル語映画部門音楽賞 A・R・ラフマーン
映画ファン賞 タミル語映画部門音楽賞
カラサーガル・アワード タミル語映画部門音楽賞
エディンバラ国際映画祭 ガラ・アワード ボンベイ
政治映画協会賞 特別賞 [32]
エルサレム国際映画祭英語版 リア・ヴァン・リー・スピリット・フリーダム賞

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Rangan 2012, p. 292.
  2. ^ a b Box Office 1995”. Box Office India. 2013年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年1月24日閲覧。
  3. ^ “Bombay”. The Times of India. (2008年5月30日). オリジナルの2017年6月12日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20170612102234/http://epaper.timesofindia.com/Repository/getimage.dll?path=TOICH/2008/05/30/53/Img/Ar0530000.png 2013年8月13日閲覧。 
  4. ^ Pillai, Sreedhar (2008年6月29日). “Tryst with terrorism”. The Times of India. オリジナルの2016年6月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160623151056/http://timesofindia.indiatimes.com/entertainment/hindi/bollywood/news/Tryst-with-terrorism/articleshow/3297217.cms 2019年5月10日閲覧。 
  5. ^ Sound of Cinema: 20 Greatest Soundtracks”. BBC Music. BBC (2014年8月19日). 2018年12月25日閲覧。
  6. ^ a b c d Rai, Saritha (1995年1月15日). “Mani Ratnams Bombay views communalism through eyes of common man”. India Today. オリジナルの2017年9月15日時点におけるアーカイブ。. https://webcitation.org/6tUhH0PDm?url=http://indiatoday.intoday.in/story/mani-ratnams-bombay-views-communalism-through-eyes-of-common-man/1/287685.html 2017年9月15日閲覧。 
  7. ^ Correspondenthyderabad, N. Rahulspecial (2019年5月17日). “Rallapalli dead”. The Hindu. https://www.thehindu.com/news/cities/Hyderabad/rallapalli-dead/article27166155.ece 2019年5月17日閲覧。 
  8. ^ 1997–98 Kodambakkam babies Page”. Indolink. 2016年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年10月4日閲覧。
  9. ^ “AR Rahman birthday special: Five most popular songs by Mozart of Madras”. Mumbai Mirror. (2017年1月6日). オリジナルの2017年9月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170921065717/https://mumbaimirror.indiatimes.com/entertainment/bollywood/ar-rahman-birthday-special-five-most-popular-songs-by-mozart-of-madras/articleshow/56368173.cms 2017年9月21日閲覧。 
  10. ^ Rangan 2012, p. 147.
  11. ^ Rangan, Baradwaj (2013年12月1日). “Man of Steel”. The Caravan. オリジナルの2015年1月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150108223000/http://www.caravanmagazine.in/arts/man-steel?page=0%2C5 2014年10月30日閲覧。 
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  13. ^ Srinivasan, Meera (2010年7月12日). “Success of dubbing artist lies in not letting audience know who you are”. The Hindu. http://www.thehindu.com/news/cities/chennai/ldquoSuccess-of-dubbing-artist-lies-in-not-letting-audience-know-who-you-arerdquo/article16193272.ece 2017年8月6日閲覧。 
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  17. ^ Rangan 2012, p. 146.
  18. ^ “Bombay: The Making of the Most Controversial film of the Decade”. Sunday: 76. (2–8 April 1995). https://archive.org/details/dli.bengal.10689.20999. 
  19. ^ “The "Mozart of Madras" AR Rahman is Performing LIVE in Australia”. SBS. (2017年2月14日). https://www.sbs.com.au/yourlanguage/hindi/en/audiotrack/mozart-madras-ar-rahman-performing-live-australia 2020年8月4日閲覧。 
  20. ^ Surajeet Das Gupta, Soumik Sen. “A R Rahman: Composing a winning score”. Rediff.com. 2002年9月21日閲覧。
  21. ^ a b 100 Best Albums Ever”. The Guardian. 2010年2月3日閲覧。
  22. ^ Devaki, A (2004) (タミル語). 1985 முதல் 1995 வரையிலான விருது பெற்ற தமிழ்த் திரைப்படங்கள் ஒர் ஆய்வு [A review of award winning Tamil films from 1985 to 1995]. Bharathiar University. pp. 226. http://shodhganga.inflibnet.ac.in/bitstream/10603/106524/15/15_bibliography.pdf 
  23. ^ Chatterjee & Jeganathan 2005, p. 158.
  24. ^ Malaysia has banned screenings of the film 'Bombay' because...”. UPI. 2020年8月4日閲覧。
  25. ^ Bombay”. Independent Cinema Office. 2020年8月4日閲覧。
  26. ^ “சினிமா விமர்சனம்: பம்பாய் [Movie Review: Bombay]” (タミル語). Ananda Vikatan. (19 March 1995). 
  27. ^ Kannan, Anand. “Bombay”. Planet Bollywood. 2001年7月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年5月20日閲覧。
  28. ^ Berardenelli, James (1996年). “Bombay”. ReelViews. 2017年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月30日閲覧。
  29. ^ Top 10 Indian Films”. BFI (2007年7月17日). 2004年8月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月4日閲覧。
  30. ^ “Bypassing copycats, Sandalwood style”. Bangalore Mirror. (2012年1月29日). オリジナルの2016年10月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161009214014/http://www.bangaloremirror.com/entertainment/south-masala/Bypassing-copycats-Sandalwood-style/articleshow/21434657.cms 2016年11月4日閲覧。 
  31. ^ 1996 : 20th Matrishree Awards” (2013年9月21日). 2013年9月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月4日閲覧。
  32. ^ Political Film Society Awards – Previous Winners”. 2009年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月4日閲覧。

参考文献[編集]

  • Chatterjee, Partha; Jeganathan, Pradeep (2005) [2000]. Community, Gender and Violence. Permanent Black. ISBN 81-7824-033-5. https://books.google.com/?id=Y9GXrgrkXIIC&dq=Kamal+Basheer+Kabir+Narayan+Bombay 
  • Gopalan, Lalitha (2005). Bombay: BFI Film Classics. London: BFI Publishing. ISBN 978-0-85170-956-7 
  • Rangan, Baradwaj (2012). Conversations with Mani Ratnam. India: Penguin Books. ISBN 978-0-670-08520-0 

外部リンク[編集]