捨てられたディド (タルティーニ)

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ヴァイオリンソナタ捨てられたディド』(Didone abbandonata)は、ジュゼッペ・タルティーニの作曲したヴァイオリンソナタ。作曲年代・動機等は一切不明である。

作品の題材[編集]

この作品の題名「捨てられたディド」のディドとはギリシア・ローマ伝説テュロスの女王のことである。ディド女王はアエネアス(トロイアの英雄)と恋に落ちるが、彼は神命によりイタリアに去ってしまい、リビアの王と結婚を迫られた。嘆き悲しんだディドは王宮に火を放ち、その火中に身を投じて死んだという伝説がこの作品の題材である。各楽章にどの場面を描いたかを記したが、それはあくまで通説(タルティーニ自身によるものではない)であるので、個々の解釈があってよいであろう。

第一楽章[編集]

Affettuoso.愛らしく の意。ディドがアエネアスを想う気持ちを描いたとされる哀切で、アルマンド風の曲。二部形式でかかれ、ト短調-変ロ長調-ニ短調-ト短調が大まかな変化であり、三連符、重音が多用されている。

第二楽章[編集]

Presto non troppo.燃え盛る王宮に身の投じたディドを描いたとされるクーラント風の急速楽章。上昇音階とアルペジオ風の音符が多用されるが、第二部でせわしない音形から一時開放されたような、カンタービレのやさしい旋律もある。前楽章と同じく二部形式で書かれ、ト短調-ニ短調-ト短調が大まかな変化。

第三楽章[編集]

Largo-Allegro comodo.Largoは第一楽章、第二楽章の総決算といった趣の重々しい曲で、重音が多用され、完全終止せずattaccaで始まるAllegro comodo(comodoは気楽に の意)は亡き王女への挽歌といった趣のバルカローレ風の音楽で、第一、第二楽章とは異なって穏やかな雰囲気の曲。二部形式で書かれ、ト短調-ニ短調-ト短調が大まかな変化。第二部の終盤で、それまでとは異なって痛切な旋律がピアニッシモで奏でられるが、それもすぐに打ち破れ、最後は決然と曲を閉じる。

参考文献[編集]