食性

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食性(しょくせい、: feeding behaviours、food habit)とは、基本的には、動物が食べる食物種類(分類)や、捕食(摂食)方法 などについての性質。

厳密に分類すると、食物の種類を区別する食性: food habit)と、摂食の方法を指す採食習性: feeding habit)があるが、これらはしばしば混同され「食性」としてひとくくりにされる[1]。本記事では両者を扱う。

概説[編集]

動物食物を食べるが、その食物の種類(何を食べているか。つまりどんな種類・カテゴリの食物を食べているか)、捕食のしかた、食べ方、またその後に消化して栄養素としてとりこむしくみも、動物の種類によって異なり、非常に多様である。しかも「何をたべるか?」に注目するだけでも、同一種でも地域や季節で食物の種類が異なる場合があり、また幼体と成体では異なっていることが多く、複雑である。

大雑把な分類

食性の中でも、食物の種類に関して、一般人が日常的にも使う、大雑把な分類の代表的なものとしては、動物食(性) carnivorous、植物食(性) herbivorous、雑食(性) omnivorousを挙げることができよう。(なおこの3分類ではうまく実態を示していないケースがある、として、そこに腐食性 saprophagousを加え、4分類とすることもある。)

なお、アルファベット表記の学術用語では語末がvorusとなっているが、英語接尾辞 -vore はラテン語vorāre (ウォラーレ。「eat、食う、むさぼる」の意)を語源とし、動物の食性(食餌性)の種類(食性による分類)を示す名詞を形成する。同様の意義の形容詞を形成するのには、接尾辞 vorous を使用する。
なお、上の分類用語としての「雑食」は、あくまで「動物性の食物も、植物性の食物も、両方とも食べる」という意味であり、「種々雑多な食物を食べる」という意味ではない。

上の大雑把な3分類は、生物学以外の、日常的な世界では、ほぼ同義のつもりで肉食性草食性雑食性とも表現され、一般常識用語としても使われている[注釈 1] ただし大雑把な分類の代表として、肉食性・草食性・雑食性を挙げる(挙げて済ます)のは、ヒト(哺乳類。陸棲生物)寄りの視点から見た、いわば偏った用語や挙げ方であり、草食という言葉で植物食全体を意味させるのにも無理があるし、(陸棲、水棲も含めて)動物全体を網羅的に考察する場合には適切な挙げ方ではない。また海中の動物の中には、微小プランクトン食が重要である種もいるからである。

(生物学的により適切で、より網羅的な分類は#食性による動物の細かな分類で解説する。) 

細分類

上に挙げた動物食・植物食・雑食という3分類は、それぞれさらに細かく分類できる。

動物食(性)は、鳥獣食性(を食べる)、食性、昆虫食性(食虫性)、食性などに細分類できる。

植物食(性)は、種子食性、果実食性、食性、樹液食性、花蜜食性などに細分類できる。


食性による動物の細かな分類[編集]

下の表で、食性(食餌性)の違いによる動物の分類と、それに対応する摂食食物を示す。


左から順に、和名(不明なものあり)、英語名、対応する摂食食物、備考(※)である。

食性 英語 食物 補足
食べ物による分類(狭義の食性[1]
動物食動物(広義の肉食動物 carnivore 動物全般
  (狭義の)肉食動物 carnivore 四肢動物 鳥獣食動物[1]flesh eater[2]
魚食動物 piscivore 魚類
虫食動物 insectivore 昆虫など
molluscivore 軟体動物 貝食性[1]
血食動物 sanguinivore 血液
spongivore 海綿動物
ophiophagy ヘビ
lepidophagy 魚の(うろこ) 鱗食魚[3]
植物食動物(広義の草食動物 herbivore 植物全般
  (最も狭義の)草食動物 graminivore イネ目などの草本
葉食動物 folivore
xylophagy 木本 シロアリ等による木食い。材食性[1]
花粉食動物 palynivore 花粉
蜜食動物 nectarivore
樹液食動物 mucivore 樹液
果実食動物(果食動物) frugivore 果実
穀物食動物(穀食動物) granivore 種子穀物
藻食動物 algivore 藻類
雑食動物 omnivore 動物と植物
土食動物 limnivore
デトリタス食動物 detritivore デトリタス
菌食動物 mycovore 真菌
細菌食性生物 bacterivore 真正細菌
腐食動物 saprophagy 死体や排出物など 食糞など。
  腐肉食動物(屍肉食動物) scavenger 腐肉(自ら殺していない動物) 肉食の一部。
食べ方による分類(採食習性[1]
捕食動物 predator 自ら殺した動物 肉食の一部。
濾過摂食動物 filter feeder プランクトンデトリタス
非選択的採食型(粗飼料食型、グレーザー、グレイザー) grazer 低質の植物(牧草など) 草食の一部[4]
選択採食型英語版(濃厚食選択型、ブラウザー) browser 高質の植物(芽、若草、花など) 草食の一部。グレイザーとブラウザーの中間型もある[4]

調査・研究[編集]

食性の調査にはかなりの手間がかかるので、明らかにされている動物はほとんど無く、食性の実態が明らかになっている動物は少数派である。

野生動物の食性の調査方法はいくかあるが、消化管内容物の試料を調査する方法が、最も一般的な手法である。消化管内容物を調べる方法は、肉食動物・雑食動物のどちらも調べることができるからである。近年注目されているのは、や胃内容物の「餌生物由来のDNA」を特定して解析することで、餌生物を推定する方法である。餌のDNAよりも食べる側の動物(ホスト)のDNAのほうが多く発見されるので、ホストと餌のDNAを区別する必要があり、また消化されることでDNAが断片化するので難しかったが、それらの課題を解決して実用化に至った。

調査法の歴史概要

もっとも素朴な方法で、もっとも古くからある方法は、を見て(また糞をほぐすなどして)そこに含まれるもの目視、形態観察して餌を推定するという方法であった。次の段階の方法としては、動物の解剖をし、胃内容物の形態観察をして、つまり研究者が直接目視、観察することで推定する方法がとられた。

ただしこれらの方法は、餌が消化されてしまうと形が無くなり、形態観察が不可能になるという問題点があった。糞に比べると、胃の内容物はまだ消化が進んでいないので形態観察が可能な場合が多いので、胃の内容物調査がよく採用されるようになった。ただし保護動物(希少化しており、保護するべき、殺してはいけない、と国際機関などで定められている動物)は研究者も殺すわけにはいかず解剖ができないので、胃の内容物調査は原則行えず食性調査がなかなか進まなかった。

傾向

85%の節足動物、6%の軟体動物、5%の脊椎動物を含む比例的にサンプリングされた1087分類群について言えば、63%が肉食、32%が草食、3%が雑食であり、肉食性の分類群が多い[6]

最初の多細胞動物の食性?

上の研究の筆頭著者で進化生物学研究者のJohn Wiens(アリゾナ大学)とその同僚から成るチームは「最初の多細胞動物は肉食性であった」とし、肉食性から草食への進化は、腸内で草を発酵させる腸内細菌叢後腸発酵英語版)、牛のように4つの胃をもつなどの特殊な内臓の進化、反芻・食糞などが必要であり、進化のハードルが高いことを示唆しているとしてる[7]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ この肉食性、草食性、雑食性という分類は、世界各地域の中学生の理科のレベル(日本では中1)で教えられる用語であり、「中学生ですら知っている用語」なので、大人にとってはほぼ「常識用語」と化しているので、一般の人々の日常用語としても使われる。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f 浦本昌紀. "食性". 改訂新版 世界大百科事典. コトバンクより2024年1月3日閲覧
  2. ^ 浦本昌紀. "肉食動物". 改訂新版 世界大百科事典. コトバンクより2024年1月3日閲覧
  3. ^ 落合明・尼岡邦夫. "鱗食魚". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2024年1月3日閲覧
  4. ^ a b 板橋久雄・石橋晃「飼料学(31)―V. 産業動物 VI. 反芻動物(1)」『畜産の研究』第60巻第10号、養賢堂、2006年、1100-1108頁。 
  5. ^ 大東, 肇 (1998). “チンパンジーの薬用植物利用に関する化学的・生態学的解析”. 質量分析(Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan) 46 (3): 173–177. doi:10.5702/massspec.46.173. ISSN 1340-8097. http://www.jstage.jst.go.jp/article/massspec/46/3/46_3_173/_article/-char/ja/. 
  6. ^ Román-Palacios, Cristian; Scholl, Joshua P.; Wiens, John J. (2019-08-01). “Evolution of diet across the animal tree of life” (英語). Evolution Letters 3 (4): 339–347. doi:10.1002/evl3.127. ISSN 2056-3744. PMC PMC6675143. PMID 31388444. https://academic.oup.com/evlett/article/3/4/339/6697498. 
  7. ^ The world's first animal was probably a carnivore サイト:サイエンス

関連事項[編集]

外部リンク[編集]